WIDE 新大陸の原産食物

アンデスアマゾンのイモ類
原種系ジャガイモのパパ・ナティーバ
 パパ・ナティーバといわれる原種系ジャガイモの品種数は4000以上ともいわれている。
 私が、このパパ・ナティーバに興味を持ちはじめたのは2000年代初期、雨期2月末ごろに訪れていた山村だった。空き棟に滞在させてもらっていた民家の少年にジャガイモを分けて欲しいと頼んだ。すると30分ほどして、少年は家近くの畑から掘り起こしてきたジャガイモ数十個を「パパ・ナティーバだ」といって布包みから広げた。
 雨水と土にまみれていたが、それらが色とりどりで形も丸いものや細いものなどと変化していたので驚かされた。少年はその中に10数種もの品種が混ざっていると教えてくれた。以来、雨期の2、3月にかけて山村に出かける私のジャガイモ探しの旅がはじまった。
 そうして2014年までに入手できたパパ・ナティーバは250種以上。それらのすべてを自分で茹でて試食した。私の著書『新大陸が生んだ植物』に詳しく紹介しているので細部は省くとして、ここではおおよそのパパ・ナティーバの特徴を記しておこうと思う。
 味については、約70パーセントがアリノソといわれているクホクとした食感を持っていた。このホクホク感もまた品種ごとに違う粉質によって微妙な違いがあった。ほかにはしっとりしたもの、ねっとりしたものなどさまざまであった。
 パパ・ナティーバの品種名は大半が昔からの言葉ケチュア語でつけられている。だが、村人によれば中にはインカ時代の特殊の言葉なのか、自分たちで意味不明のものがあるといっていた。
 形や質、味などによってつけられた品種名には、さらに何種かに分けられていた。
 変わったところでは、ぶどう粒が固まったような形をしたカチュン・ワカチェ(嫁泣かせ)、リャマ・センカン(リャマの鼻)、パコ・センカン(アルパカの鼻)、ピニャ(パイナップル)、リャマ・シロ(リャマの爪)、ワワ・ハヌクナ(幼児の離乳)、ケビリョ(幼虫)、クチ・アカチャ(豚のふんころ)、ルナ・マキ(人間の手)、プマ・マキ(ピューマの手)、ルント(卵)というのものにはコンドル・ルント(コンドルの卵)、レケ・ルント(レケという鳥の卵)などがあった(これらの中には卵の黄身そのものの色と味わいを持つものがある)。
 ボリは総じてまるいものは数種以上。どれもこれもずば抜けて味のすばらしいベルンドスは10種以上もあった。ジャガイモを冷凍乾燥した保存食としてチューニョヤモラヤがあるが、チューニョ用に適すのが何種かのクシ、モラヤ用に適すのがアクの強い何種かのワニャである。このモラヤ用としてルキというジャガイモもあったが、これは私の歩いた地方では仲間の数は少なかった。
 これら保存食用のジャガイモは霜に耐性を持つということで、おもに山側海抜4000mあたりの高地で栽培されている。興味深いのはその霜に強いジャガイモたちが、乾期6月ごろに降りる強烈な霜に毎晩晒されて保存食加工されているところである。
 これらのジャガイモのほとんどに、プカ(赤)、ヤナ(黒)、ケリョ(黄)、ユラク(白)、モロ(斑)、あるいはテッカ(花)などが品種名に上乗せした形でつけられている。インカは、石の加工やマチュピチュをはじめとした巨石利用の城塞都市や大インカ道など、数々の奇跡の仕事を残したが、この無数の品種を持つジャガイモも同じようなことがいえるかもしれない。zz

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zzzzzz 左から「プカとヤナのカチュン・ワカチェ」、ピーニャ、「モロとプカモロのケビリョ」、「プカ、プカモロ、モロのピテキーナ」
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zzzzzzz左から「プカとモロのリャマ・シロ」、ワワ・ハヌクナ、クチ・アカチャ、「プカチワコ、プカ、モロ、ユラクのスイト」
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zzzzzzz左から「ヤナ、ルナレハ、プカモロ、ウルク、ヤナモロ、テッカモロのボリ」、「プカ、プカモロ、ソコのベルンドス」
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zzzzzzz左から「レケ、ケリョ、プヨのルント」、ユラク・ワニャ、ヤナ・クシ、ユラク・ルキ、ヤナ・チョロス、プカ・サイリョ、サワシライ

アンデス高地の小さなイモ類
 アンデスでは昔から高地側(海抜約3200~4000m)でジャガイモ、その下方側(海抜約2600~3100m)でトウモロコシが栽培されてきた。その中間地ともいえる一帯で、ジャガイモよりも小さなイモ類が栽培されている。
 それらのイモ類として、サツマイモ以上にやわらかい甘さを持つオカ(カタバミ科)がある。 このオカは収穫後、陽光に晒すほどもっと甘味が増す。ほかに、オカほどはないがやはり甘みを持ち、似た形をしたイモがマシュア(別名アニョ、ノウゼンハレン科)である。これらは茹でたり焼いたりして食べることが多く、料理用としては使われていない。
 やはり、パパ・ナティーバ同様にそれぞれ品種名がつけられており、マシュアを例にすればミチ・マキ(ネコの手)、それよりも大きく武骨なプマ・マキ(ピューマの手)などという変わった名がある。
 ほかにリサス(別名オユコ、ツルムラサキ科)というイモ類もある。これは料理用に適し、皮を剥かずに微塵切りにしてスープの具や炒め物などにされ、オユキーとと呼ばれて親しまれている。アマゾン奥地に運んだことがあるがジャガイモ、あるいはそれ以上に長持ちし、35日間も腐ることがなかった。これらの小さなイモ類が、ジャガイモやトウモロコシ中心の高地側の食生活を補ってきたのである。
 ほかに高地側には、地中の果物でもあるヤコンがある。このヤコンは日本のマーケットでも見かけたことがるが、まだ一般的には知られていないようだった。一見、サツマイモのようでもあるが、煮たり焼いたりせずに皮を剥いて生のまま食べるのが普通である。水分が多く、甘くサクサクした食感は梨のようでもある。

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 左から「ケリョとヤナのミチ・マキ」、「ケリョとユラクのプマ・マキ」、マスワ、アヤルワヤ、パシニャ、「ヤナとプカのヤワルワカ」 
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 左からマシュアと違って先端に丸み持つオカ5点、色も違い丸いものや細長いものがあるリサス3点、桜色をしたヤコン       

亜熱帯、熱帯地方のイモ
 海抜1500mあたりの亜熱帯地から熱帯地にかけてラカチャ(イモゼリ、セリ科)、サツマイモ(ヒルガオ科)、アチラ(カンナイモ、カンナ科)、ユカ(トウダイグサ科)などが栽培されている。ラカチャは現地では白人参とも呼ばれ、生でも食べられる。だが、普通はスープの具にされていることが多い。アチラは茹でて食べる甘くておいしいイモだ。
 ほかにユカ(別名キャッサバ)がある。これは、個人的にはすべてのイモ類の中の王様ではないかと思っている。大根型の細長い普通のユカは甘ユカ(ユカ・ドゥルセ)と呼ばれてる。この甘ユカを細く刻んで(中指以上の大きさで)空揚げにしたものと目玉焼き、それにコーヒーの朝食は「ほかに何もいらない」、と絶叫したくなるほどのおいしさがある。
 普通はぶつ切りにしてスープの具、あるいは主菜料理などといっしょに食べられている。甘ユカ以外に、少し丸い形をしたの苦ユカ(ユカ・アマルガ)がある。この苦ユカは水の中に20日間以上浸けてアク抜きをし、それからおろし金でおろしてから煎ったものがファリニャという保存食、土鍋で焼いたものがカサベという焼き上げパンとなる。フアリニャはスープなどに落として食べる。カサベは肉や魚などといっしょに食べると、そのすばらしさに感動させられる。ともに一度口にしてすると、それがなくては食事をした気にならないほどの食品である。
 料理バナナと茹でた甘ユカはアマゾンの食生活には欠かせなく、村でも町でもほとんどの人がほぼ毎食口にしている。そこに、先住民たちにとってはフアリーニャ(ペルーに多い)やカサベ(コロンビア方面に多い)が加わっているのである。

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左から甘ユカを掘り起こすアウカ族の女、市場に並ぶ甘ユカ、苦ユカのカサベづくり、ラカチャの畑と市場で売られているラカチャ

*ジャガイモ以外のイモ類についても、私の著書『新大陸が生んだ食物』にて詳しく知ることができます。